.

『若き少尉の初陣』『ねじまき少女』

金子浩さんよりグレアム・シャープ・ポール『若き少尉の初陣』(ハヤカワ文庫SF 2012/4月刊)をいただき、拝読。

遠未来宇宙ミリタリーSFシリーズ〈若獅子ヘルフォート〉第一巻で、新鋭作家である作者のデビュー作。人類が宇宙に広く進出して星間国家を築いている時代、星間連邦宇宙艦隊所属の主人公マイケル・ヘルフォートは宗教独裁国家ハンマー・オブ・クラア同盟との苛烈な戦いに挑んでいく。訳者あとがきにあるように本作はある意味"純然たる"ミリタリーSFで、宇宙生命体とか飛躍的な科学アイデアとかといったいわゆるSF的な要素は敢えて極力排し、宇宙での戦闘の迫力とそこに至るまでの群像描写といったいわばストーリー・テリングに力を集中させて書いている。リーダビリティー度は相当高く、エンタテインメントSF作家として伸びていく可能性を感じさせる。シリーズ原書は既に4巻まで出ているとのことなので、邦訳も継続されていくと見込まれる。
ついでに…というわけでは決してないが、上の写真↑の下ほうの2冊は同じ金子浩氏が田中一江さんとの共訳で出しているパオロ・バチガルピ『ねじまき少女』(ハヤカワ文庫SF)上下巻。こちらは実は昨年5月刊なのでちょうど丸一年経ってしまってるが、途中まで読んで事情により中断したきりだったもの。今般金子さんの新刊訳書を読んだ機会に(といっても実はこちらは田中さんのほうからいただいた本だったが)再開しようやく読了。ヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞など多くのSF賞を獲得していて、娯楽作に徹した『若き…』に比すと、いわば〈大向こう〉に高く評価された大作といえる。近未来のバンコクを舞台とし、環境危機とエネルギー危機と食糧危機が極度に進んだ世界にあってしぶとく繁栄するアジアの猥雑な大都市で、エミコという謎めいた日本人少女とそれをとり巻く群像劇が描かれるのだが、このエミコは実はアンドロイドで、〈ねじまき少女〉というタイトルはそこに由来する。しかも彼女はいわば性玩具人形で、ひどい陵辱と虐待で弄玩される境遇にあり… というとやはりバンコクに纏わる某都市伝説をどうしても思い出してしまうが、作者がそこまで取材し知っていたかどうかは判らない。とにかくその点も含め、作者が日本も含めた東アジアの想像力触発性に強く惹かれていることは間違いない。但しそういう要因もあってか、本邦のSF読者の間での本書の評価はかなり毀誉褒貶がかまびすしいようだ。たしかに一筋縄ではいかない作だが、しかしやはり訳者あとがきで金子氏が書いているように、とくに3.11後という状況下で読むとこの悪夢めいた世界観が異様なリアリティで迫ってくる。また個人的にはチャイナ・ミエヴィル『ベルディード・ストリート・ステーション』や朝松健『夜の果ての街』に通じる世紀末都市ゴシック・ノワール(?)とでもいうべき濃厚な雰囲気に魅力を感じた。
なお金子氏からはその後ライク・E・スプアー『グランド・セントラル・アリーナ』(ハヤカワ文庫SF)上下巻も頂戴している。
というわけで金子さん田中さんありがとうございました!
(※因みにご両人ともホラー誌『NIGHT LAND』創刊号で訳を担当されてます、編集Mさんつながりで)
若き少尉の初陣 (ハヤカワ文庫SF) ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF) ねじまき少女 下 (ハヤカワ文庫SF)
グランド・セントラル・アリーナ (上) (ハヤカワ文庫SF) グランド・セントラル・アリーナ (下) (ハヤカワ文庫SF)









この機に翻訳書つながりでごく最近の他の海外作品の貰い本も紹介させていただきます。
ティーヴン・マンスフィールド『ギネスの哲学』(おおしまゆたか訳・英治出版)、レイ・ブラッドベリ『お菓子の髑髏』(仁賀克雄訳・ちくま文庫)、パトリック・クェンティン『迷走パズル』(白須清美訳・創元推理文庫)。

おおしまさん、仁賀さん、創元編集部Iさん、ありがとうございました!