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道化の町飛騨深泥丘のモンスターズ

道化の町 (KAWADE MYSTERY) モンスターズ 深泥丘奇談 (幽BOOKS) 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (幽クラシックス)

今年になってからの貰い物の本の中である共通項のあるものが目につき(といっても貰い物はほぼ常にミステリorSFor怪奇幻想のいずれかなので共通項があるのは当然なんだが)、しかもそれが偶々個人的興味をとくに刺激するものだったので、珍しくそれぞれ早めに読んだ(一部例外あり)。まず──これが実は一番最近のだが──異色作家ジェイムズ・パウエルの『道化の町』(森英俊編・白須清美&宮脇孝雄訳・KAWADE MYSTERY)。既にジョン・コリア『ナツメグの味』が出ていたりL・P・ハートリー『ポドロ島』が予定されていたりという叢書の中で、この本もまた普通のいかにもミステリらしいミステリは1つもないというまさに異色で奇妙な味の作品集だ。モールス信号を解する犬や○○を食う猫等が出てくる動物怪談「プードルの暗号」、ジャックと豆の木の奇天烈な後日談ファンタジー「魔法の国の殺人」、皮肉な過去改変譚「時間の鍵穴」、ドラキュラネタの「死の不寝番」、ホチキスでドアに留められた?騎馬警官が殺人捜査するスラップスティック「折り紙のヘラジカ」、架空のクラウンタウンで起こったファンタジックな殺人劇「道化の町」といずれも奇態なクセ球で、流石Mスレイドを生んだ国の作家とついまた手前味噌をいいたくなるようなユニークさだ。古典本格ミステリの泰斗森氏の編というのが何だが似合わなく思えるほどだが、そこはそれ、解説ではちゃんと全てを〈本格〉文脈で見事に貫いている。
その『道化の町』を読む間ずっと頭にあったのが日本の異色?〈本格〉作家山口雅也だ、とくにその新作『モンスターズ』(講談社)を読んでたので。これがまた何とも、新奇なドッペルゲンガー物「もう一人の私がもう一人」、『匣の中の欠落』や『奇愚』を書いた作家が出てくるパロディ「箱の中の中」、中篇ヒトラー奇譚「モンスターズ・怪物団殺害事件」等どれも一筋縄ではなく、とくにナチに人狼や吸血鬼を絡めた最後のは「やられた!」と叫ぶこと請合い。
そんな山口氏に比べてより〈本格〉度にこだわっていそうな印象の作家が綾辻行人だが、実は濃厚なホラーも色々書いてるのはよく知られたところで、そちらの趣味の新境地といえる新作が『深泥丘奇談』(幽ブックス)だ。京都にあるとされる架空の病院の内外で起こるゾッとする話を集めたという体裁の短篇集だが、面白い試み(お遊び)の1つに故意に擬音を多用するというのがあって、「顔」での〈ちちち…(これ憶えあると思ったら古賀新一のあれだ!)〉とか、「声」での〈ぎゅああぁぁ…〉とか、何とも嫌なノイズが全篇の独特な怪奇志向を象徴してるようだ。あと綾辻氏がク○ゥルー神話とは!と快哉叫んだ「悪霊憑き」なんていう貴重作もある。作者が偏愛する街を舞台にした〈この世にある不思議〉(惹句)の網羅が実に魅力的。
最後に岡本綺堂『飛騨の怪談・新編綺堂怪奇名作選』(東雅夫編・幽ブックス)を挙げたい──ところだが、実は遺憾ながらこれのみ未読。というのは(言い訳だが)新仮名に改めてあるものの漢字が異様に多い(しかも旧字)上にフォントがどうも独特で、老眼がきてる目にはいまいち乗りづらかったからだ。だが初復刊という幻の長篇表題作は何と仰天のUMA伝奇小説!だというからそそられずにはいない。それに編者の東氏は綺堂・国枝を巡っては今や末國善己氏とライバル?になりつつあるようだし… 
というわけで、これら東西のいずれも相当に本格的な辣腕ミステリ作家でありながら、一方で空想・奇想・怪想を思う様羽ばたかせるタイプの作家たちの、しかもいずれも個人作品集という形の本が偶々手元に並んだので、ちょっと嬉しくなって紹介した次第。


ただ、実はあともう1人とくに最近立て続けに本を貰ってる奇想作家(兼翻訳家)がいるのだが、その辣腕ぶりがこのところあまりに凄いので、後日あらためて別に採りあげることにしたい(その名は南條竹則)。


※SF作家・翻訳家・評論家・TVプロデューサー野田昌宏氏訃報。ご冥福をお祈りします。