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『東京の夜は楽し』

半田健人に触発されたわけじゃないが(って触発されたんだけど)ずっと懸案だった『東京の夜は楽し 1960's TOKYO Love Story 恋するムード歌謡』を先日思いきって?買ったので紹介を。2枚組CD全40曲。

買ってみて大成功! これこそおいらの新たなバイブルになりそうだ。要するにタイトルどおり東京を舞台にした60年代ムード歌謡傑作集ってことなんだけど、肝心なのはこれがビクター・エンタテインメントの企画CDであること。どういうことかというとつまり当時のムード歌謡(なる言葉が当時から既にあったかどうかはやや疑問だが)というジャンルのメジャーどころはビクターが──というよりビクター専属作家だったこの分野のパイオニアである佐伯孝夫/吉田正コンビ&吉田ムード・スクールのメンバー=フランク永井・マヒナ・松尾和子(勿論全員ビクター歌手)が──ほとんど一手に担っていたということだ。つまりこのCDがある意味で60'sムード歌謡(略して60ムード)の「全て」だといっても過言じゃない。何はともあれラインナップを↓。

※(永)フランク永井 (和)和田宏とマヒナスターズ (松)松尾和子 (平)平尾昌章 (青)青江美奈 (美)田代美代子
Disk1
1. 有楽町で逢いましょう(永) 2. 東京ダーク・ムーン(永) 3. 西銀座駅前(永) 4. 泣かないで(和) 5. たそがれのテレビ塔(永) 6. 青い広場の終着駅(和) 7. ロマンス・タイム(和) 8. グッド・ナイト(松・和) 9. 東京ナイト・クラブ(永・松) 10. 好き好き好き(永) 11. 嫌い嫌い嫌い(松) 12. グッド・ナイト東京(松) 13. 東京カチート(永) 14. 東京デイト(永・ブラックキャッツ) 15. 殺し文句(永) 16. 東京二十五時(平) 17. 六本木の夜(平) 18. 夜霧とバラのブルース(平) 19. ドライ・ジン(松) 20. 銀座はマロン(松)
Disk2
1. ウナセラディ東京(和) 2. 東京の夜は更けて(いしだあゆみ) 3. 夜はダイアモンド(藤田功) 4. 東京の夜(ナイト・イン・トウキョウ)(田辺靖雄) 5. 雨の夜の東京(ONE RAINY NIGHT IN TOKYO)(和) 6. 赤坂の夜は更けて(和) 7. 銀座の夜(永) 8. 銀座ブルース(松・和) 9. 東京の夜は楽し(和) 10. 二人だけの夜(美) 11. 今宵だけのパートナー(永・美) 12. 青山通り(三田明) 13. ブルー・ブルース(青) 14. 東京のためいき(青) 15. 東京の夜はささやく(和) 16. あなたとわたし(青) 17. 雨の東京(松) 18. ブルー・ムーン・イン東京(永) 19. 恋のブルー銀座(永) 20. ミッドナイトTOKYO(永)

全てレコード発売年順で、Disk1が57〜63年で全曲モノラル、Disk2が64〜70年で全曲ステレオという構成になってる。
ご覧のとおりとにかくフランク/マヒナ/松尾の3組が大車輪で、とくにフランクの占拠率が凄い。何といっても佐伯/吉田による60ムードの嚆矢「有楽町で逢いましょう」の唄い手なのだからその偉大さといったらないわけで、これはそのことをあらためて思い出すための企画にもなっているかのようだ。あと例えばDisk2の1.5.6などは有名な競作曲で、市場面ではそれぞれザ・ピーナッツ/越路吹雪/西田佐知子らが大ヒットさせたが、この盤はあくまでビクターのものなのでそれらの人たちの歌唱は使わないってところもある意味特徴になってる(そこらへんよく聴き比べるんだけどいずれも甲乙つけ難い味がある)。
それから解説によればこの企画のもう1つの大きな特色は初CD化曲が多いってことらしい。といっても残念なことにどれとどれがそうだとは明示されてないが、まず平尾昌章(現・昌晃)の3曲は全部そうであるようだ。中でも「東京二十五時」は今回初めて聴いた(勿論他の2曲もそう)が曲自体といい平尾の歌唱といいめちゃくちゃツボで、一番のめっけ物といってもいいほどだ。平尾はたまに懐メロ番組に出ても当然ながらロカビリーか「カナダからの手紙」しか唄わないから、この珍しい3曲の意外なほどのハマり方にはほんと驚いた。珍しいといえばいしだあゆみ/田辺靖雄/三田明らのもあるが、「最珍品」と解説にあるのは藤田功「夜はダイアモンド」で、この人後年の作曲家曽根幸明(=本名、「夢は夜ひらく」が有名)だそうだ。そういえば昔テレビの企画で唄って「元歌手」といってたの見た記憶があった。作家面では上述のように佐伯/吉田作品が多いのは当然だ(とくにDisk1では2人のどちらも絡んでない曲は5つしかない)が、珍しいところでは「東京ダーク・ムーン」が高島忠夫作曲でこれがなかなかいい曲だったり、「東京の夜は楽し」が初めて知った鈴木道明(個人的に最愛の作曲家)作品だったりという発見もあった。あと「有楽町で逢いましょう」はそごうオープン時のキャンペー・ソングだったとか、「たそがれのテレビ塔」というのはフジテレビ開局記念曲で「テレビ塔とは東京タワーのこと」とかいったトリビアも面白い。
総じて初めて聴く歌が多いにもかかわらず「これはちょっとなー」というようなハズレが1つもなくほんとに名曲揃いだったというのが何より有り難い(勿論個人的なジャンル偏愛のせいもあるだろうが)。ってことでどれかの歌唱映像を──と思ったがあまりの有名曲と無名曲の混在のため、あるものは既に採りあげてたり(例えばフランク&松尾&マヒナスターズのコラボによる「銀座ブルース」をここで→http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20081103)またある曲は映像なんかあるはずもなかったりといった事情ゆえ、ここはまたもフランク永井にに頑張ってもらうこととし、「西銀座駅前」と「東京カチート」を↓。前者は迂闊にも初めて聴いたが「ABCXYZ」なる唄い出しが面白く、後者は子供の頃聴いたことがあって「カチートカチート」の連呼だけ憶えてた。


東京の夜は楽し 1960’s TOKYO Love Story