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長谷川潾二郎

6/6『日曜美術館』(再)「画家・長谷川潾二郎(りんじろう)──現実は精巧に造られた夢である」http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2010/0530/index.html
とにかく作画にとんでもない歳月をかける人で、一番有名な「猫」は愛猫が毎年秋にしか同じ寝姿をとらないので6年もかかったとか(それでも右髭が未完だったが待ちきれない画商に持っていかれた)、風景画が描き終わらないうちに月日が経ちすぎて対象風景が変わったので未完に終わったとかいう話はザラだったらしい。ということはつまりはそれほど対象を「見ながら」描くことに徹底的にこだわった人だってことだ。
実作品としてはその「猫」だけがあまりにも有名だが↓

個人的には風景画や静物画のほうにより強く惹かれた(後者は晩年歩行困難になってから始めた)。とくに風景画は昔から好きだった谷内六郎(といえば今遺族が問題に見舞われてるようだが)を思わせる素朴な雰囲気。
「箱」
荻窪風景」
番組では小栗康平らが「〈主語〉のない稀有な絵画」といったような難しいことを色々いってたが、感じ方は人それぞれでいいと思う、単純に猫の可愛さや風景の郷愁に惹かれるというだけでも。ただ以前やはり『日美』で採りあげられた犬塚勉(http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20090713)やハンマースホイ(http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20090309)にも共通する「そこはかとなく薄気味悪い静けさ」とでもいうべきものがある絵だという気はする。そしてそのことは──なぜか番組中では触れられなかったが──この画家の別の顔が異色の探偵小説家・地味井平造だということと無縁であるはずもないだろう。

↑この写真は中島河太郎編『日本探偵小説ベスト集成・戦前篇』(TOKUMA NOVELS)より。若い頃本格的に絵を学ぶため渡仏したというが(但し「パリの絵はフランス人に任せればいい」といって1年で帰国)、髪型といいどことなく藤田嗣治を思わせる。同書はじめ幾つものアンソロジー(井上雅彦編『塔の物語』他)に採られている処女作「煙突奇談」はミステリーあるいは幻想小説どちらともいいきれないような不思議な話でまさに「奇談」だが、その底には彼の描く絵に通じていそうな郷愁のようなものが仄見えるし、単なる奇天烈話じゃなく細部を念入りに積み上げていくところも作画法に似ているかもしれない。
潾二郎の画集としては岩崎美術社の〈夢人館〉シリーズ(編者小柳玲子氏の自費出版らしい)の4巻目があって今では高額古書になってるが、最近求龍堂から廉価な(といっても3000円だが)画文集『静かな奇譚』が出た。また『彼等の昭和―─長谷川海太郎・潾二郎・濬・四郎』(川崎賢子白水社)という研究書も出てる。そんな寡作な画家がどうやって食ってたんだろうというのがちょっと気になってたが、その本を読めば判るのにちがいない。といっても、それじゃ早速買って読もうか、ってところまではまだいかないのが何だが…
なお現在巡回展覧会開催中。http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/2010202.htm
塔の物語―異形アンソロジータロット・ボックス〈1〉 (角川ホラー文庫) 彼等の昭和―長谷川海太郎・りん二郎・濬・四郎 長谷川〓二郎画文集 静かな奇譚