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血染めの右手? あるいは、全てはFになる

山口雅也さんが国書刊行会40周年特設サイトの企画〈私の選ぶ国書の本3冊〉でJ・T・ロジャーズ『赤い右手』を選んでくれた!↓
http://blog.kokusho40th.info/?eid=64
なお千街晶之さんも既に選んでくれている↓。
http://blog.kokusho40th.info/?search=%C0%E9%B3%B9

http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336038548/
こんなフザけた小説が(注・この作品の場合にはこの種の罵倒語こそが最大級のホメ言葉になる)一流出版社の栄えある記念企画で2人もの第一線作家&評論家から選ばれるというのは、光栄過ぎにもほどがあるの感を否めない。しかしこの作は刊行当初からして既にラッキー過ぎ感に包まれていた。当時もやはり山口氏・千街氏はもとより法月綸太郎氏・我孫子武丸氏ら本格ミステリ陣営の錚々たる人たちがこの作を異常とも思えるほど強力に推してくれて、お陰で訳者の予想を遥かに超える高評価を得ることになり、作者その人も冥界でさぞ吃驚したにちがいない。
だがやはり誰よりもこの作を巡って罪が…もとい功があるのは、一大企画〈世界探偵小説全集〉の1巻としてこれを選んだ稀代の怪傑編集者・F原義也氏(当時は国書社員)だと言わねばならない。だっておいらはロジャーズなんて作家は夢にも知らず、F原氏に指示されるままにオシゴトとして唯々諾々とやっただけなのだ。しかも当時はまだ駆け出しの域を抜けない頃で(力的には今も似たようなもんだが)、F原氏の厳しい鞭撻の下でどうにか完成稿に漕ぎつけたといった体だった。よく憶えてるのがこの作の邦題についてやりとりしたときのこと──おいら:「『赤い右手』じゃあまりにも直訳で判り辛いから、『血染めの右手』でどうすかね?」F原氏:「いや、それだとあまりにパルプっぽい判り易さが先に立ち過ぎるから、謎めいてる『赤い右手』のほうが寧ろいい」──結果それが図に当たり、解説もF原氏の友人でその道のエキスパートである小林晋氏にやってもらったのが超正解だった(この怪作理解のためのまたとない助けとなる名解説で、作品自体にも増して好評だった)。
またF原氏はそれから間もなく山口氏の仲介により笠井潔氏と通じ、笠井氏編『本格ミステリの現在』を国書から出したが、あろうことかその執筆陣の末席にまでおいらを加えてくれた! ウラではきっと法月氏や巽昌幸氏ら同書の仕掛け人たちがプッシュしてくれたに相違ないとは想像されるが、とにかくそこで我孫子武丸論を担当させてもらった。今思えばよくあんな出来のものを載せて貰えたなというほどの恥ずかしいものだが、しかし少なくとも笠井氏も我孫子氏もF原氏も、何かしら従来と違うものを…という意気なりとも汲んでくれたお陰じゃないかと想像する。で同書は結果的に推協賞を得、お陰でおいらも小淵沢(笠井氏居住地)での祝賀パーティーに混ぜてもらえるという光栄に浴した。他の参加者たちは「何であんな関係ないやつがいるんだ?」と思ってたかもしれないが、でも笠井氏の別邸(仕事場)のベランダでご近所住まいの桐野夏生さんと一緒にヤキソバ作るなんて体験はきっと二度とありえないから、とてもいい一生の思い出になった(桐野さんは「この人誰?」とずっと思ってただろうが)。
…つまりそういった個人的なこともひいてはF原氏のお陰というわけだが、で当の氏はといえば、その後国書を辞めて自身の〈編集室〉を立ち上げ、各社で企画を次々やって、ストリブリング、バークリー、リッチー、イーリイetcのトップランククラスの高評価作家を次々開拓し、益々以て古典派翻訳ミステリー界の(のみならず怪奇幻想文学方面でも同様に)風雲児であり続けている。その道に関心のある人なら既にあまりにも周知のことだが、ここが氏の編集室サイト→http://www.green.dti.ne.jp/ed-fuji/で、ここを通じて業界情報を得ている人も多いはず(勿論おいらもその一人)。日記に相当する「日々のあぶく」は翌日には残されず消されるので要注意。(今回の国書の件は氏のツイッターで知った)
 ところで肝心の『赤い右手』に関してだが、最近竹本健治さんが知人の薦める本の中にたまたま同書があったとのことで、ようやく(と言っては失礼だが)読んでくれた上に、なんと「面白かったよ」とまで言ってくれたのである! 評価と趣味の厳しさで鳴るあの竹本さんが!(感涙;;) …というわけで本書を巡って久々に嬉しいことが続いたので、つい興奮して長々と述懐した次第。
 なおこの作の文庫化については、諸般の事情により現在依然〈審議中〉のサイン下にあり…








最後に、採りあげてもらったせめてもの謝意に山口雅也さんの最近の活動について。最新作品集『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル)』をハヤカワ・ミステリ・ワールドの1巻として刊行し、その記念で『HMM』最新号で責任編集をやり、またトーク&サイン会が予定されている。
http://tsite.jp/daikanyama/event/000941.html
謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) (ミステリ・ワールド)




























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