.

アウトサイダーたち

黒い夏 (扶桑社ミステリー) 弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ) 女王様と私 少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

ジャック・ケッチャム黒い夏』(金子浩訳 扶桑社ミステリー)
我孫子武丸弥勒の掌(て)』(文藝春秋 本格ミステリ・マスターズ)
歌野晶午女王様と私』(角川書店
桜庭一樹少女には向かない職業』(東京創元社 ミステリ・フロンティア

ある意味、いずれもアウトローたちの話だ。と無理やりの共通項のようにいうが、
ミステリは犯罪小説でもあるから、なんだってアウトローの話ともいえるわけで、
むしろいわずもがなかもしれない。それでも四つともたまたまなにかでリンクして
いるような気がする。『黒い夏』は六〇年代の話で、シャロン・テート事件と
同時進行の趣がある。凶悪な若者レイはどこかしらコッポラの『アウトサイダー
の不良少年たちのだれかを思わせるようなところがあるが、それはたぶん
ルックスが抜群にいいせいで、正体はあの少年たちよりはるかに悪い。
弥勒の掌』の主人公の二人の男はむしろ法を守る側だが、なぜかアウトローっぽい
雰囲気があるようだし、対する怪しげなカルトはまさに無法集団だ。
女王様と私』の真藤数馬は社会の枠からはずれたキモいロリコン男で、ある意味
アウトローだ。『少女に向かない職業』の女子中学生二人も殺人をたくらみ
アウトローになってしまう。……
そうだ、リンクがわかった。登場人物たちがアウトローだというだけじゃない。
小説そのものがアウトローなんだな、どれも。どれもたくらみが深い。悪意と
いってもいい。それはつまり作者の悪意だ。社会に対する、というより、
小説というものに対する(あるいはミステリに対する)悪意かもしれない。
だからバッド・テイストでないものはひとつもない。
といっても今どきグッド・テイストのエンタメなんて珍しいから、それも
いわずもがななのかもしれない。でもこれだけはまちがいない、この四つに
共通する作者の悪意は、「情感」ばかり追っていては読み逃してしまう質のものだ。
むしろ「理知」だ。それぞれに仕掛けがあるから多くはいえないが。
そういえば『少女には…』の葵と静香は『下妻物語』の二人組をどこか思わせる。
あの二人もアウトローか。