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決戦川中島

natsukikenji2006-04-11

アルウィンという愛称だそうな。松本平広域公園総合球技場
そこで闘われたのが二度目(J2時代以来)の決戦川中島
というのは大げさなんだが。だが甲府側はマジで、ホーム節にもかかわらずあえて
川中島に因んで松本のアルウィンを提案してきた。地元で信玄祭ということもあって。
それだけ今のヴァンフォーレ甲府が乗りに乗ってるということでもある。
それじゃあということで、例によって新潟サポはバス十数台に分乗して数千人が大挙して
乗りこみ、ホームであるはずの甲府側を数で上回るのはもちろんのこと、甲府ホーム戦の
入場者数記録および同球技場の入場者数記録をあっさり更新した。
つまり、サッカー・マスコミはほとんど無視していたにもかかわらず、第7節で一番盛りあがって
いたのは上位を争うG大阪対鹿島でもなければ、久保や佐藤寿の出来が注目された横浜対大宮や
広島対川崎でもなく、実はここ川中島だったというわけだ…
で、その7節だが、実は前節からアルビレックス新潟はピンチに陥ってた。その前のナビスコ
清水戦で、攻撃の核の、というよりほとんど唯一の得点源であるFWエジミウソンが負傷した
のだ。それで前節広島戦から新加入の若いFW中原が先発に入った、今季初戦からエジとコンビ
組んでたこれまた新加入のFW矢野とともに。おそらくイレブンはかつてないほどの危機感を
覚えてたはずだ。なにしろ点をとるのはとにかく前のほうの外人に任せきるというのが
近年の新潟の鉄板パターンだったのだから。なのにエジもファビーニョもいないとなれば、
もう戦い方、というより意識そのものを変えなきゃならない、ぐらいのことはあっただろう。
だから中原は単にエジの代役じゃなく、矢野中原の21歳コンビが新たな戦いの象徴みたいな
感じだったんじゃないか。で結果前節広島戦はその中原が見事一点をもぎとった。勝敗は腑に
落ちないPKを献上しての引き分けに終わりはしたが、内実は結果以上の成果があったはずだ。
つまりエジ頼みじゃない全員一丸で攻める(そのためにはもちろんより以上に一丸で守る)
という意識というか危機感が、急ごしらえにせよ醸成されたということで。
で今節7節甲府戦だが、これはもうびっくりだ。こんな新潟見たことない!というぐらい。
とにかく乗ってた。若々しかった。まずとにかく寄せがめちゃくちゃ速い速い。しかもその位置が
高い高い。前も中盤もとにかく球をとりにいくとりにいく。それはどういうことかといえば、
もちろん前や中盤だけが勝手にいけるわけじゃなくて、ディフェンス陣がとにかく押し上げる
押し上げる、ということがあって初めてできるわけだ。DFは左梅山・右三田・中が中野と海本慶
だが、とにかくこの四人の頑張りが凄かったってことだろう。
そもそも反町監督時代の新潟というのはどん引きで徹頭徹尾カウンター狙いというのが鉄板で、
だから糞サッカーなどと揶揄されてた。もちろん反町だって最初からそんなことやりたくて
やってたわけじゃなくて、個の力に限界のあるチームが落ちないためには(というより、
とにかく負けずに〈勝つ〉という最大の良薬をチームとサポーターに与えるためには)
「今のウチはそれしかない」という窮余の策だったわけだ(だから昨季後半はプラジル人3トップ
なんて極端な手まで打った)。しかし4万大観衆の前でホームチームが毎回どん引きってどういう
ことよ?というのが鈴木新監督のおそらく出発点となった。勝敗よりも(というのは極端にせよ)
パスをつなぐ面白いサッカーをすることを重視、という反反町ともいえる烽火を上げた。
そんげなことほんにできるがーかね?というのがおそらくみんなの危惧だったろうし、事実
最初は反町の遺産ともいえるエジミウソンの存在の大きさに選手たちがどうしても頼るがために、
なかなか鈴木イズムにすぐには移行できなかった。だがそのエジが突然いなくなった今、
その危機のお陰で皮肉にもみんなが初めて本気で鈴木イズムの実践にがむしゃらになった、
ってことじゃないか。
で、その結果この甲府戦では、驚くばかりの見事なパス回しで、1点目MF田中のグラウンダー
クロスに中原が飛びこみこぼれたところを矢野が押しこみ、2点目上がった梅山の見事な
咄嗟のヒールパスでスペースに出た鈴木慎が強烈ミドル、3点目その鈴木のふわりなクロスに
田中が果敢に飛びこみ、4点目後半ロスタイムに替わったばかりのFW河原がMFシルビーニョ
パスを受けてエリアに侵入し相手DFとGKをかすめる見事なシュート、と、終わってみればの
4−0勝利となった。もちろんその完封はGK野沢をはじめとする守備陣の奮闘の賜物だ。
野沢の神憑りセーブが2つ3つあったのもたしかだが、それ以上に中野が中心になってFWバレー
を徹底的に抑えたのがとにかく効いてる。なにしろバレーの得点能力は半端じゃない。新潟の
エジをも上回って、その力はJではワシントンやマグノアウベスジュニーニョにも匹敵するか
上回りさえする。だからOに抑えたってのは奇蹟に近いことだったろうが(というか、バレーに
球を供給するための甲府のチームとしての出来が今回たまたま最悪だったお陰もあるが)、
とにかくアルビにとってきわめて収穫の多い一戦となった。まず、前述したようにかつての
新潟には考えられないほどチームの中心の若返りに成功したこと。なにしろ新潟といえば
ロートル再生工場みたいな感じがずっと続いていたのが、ここにきて突然2トップが21歳、
田中18歳、河原19歳。とくに田中亜土夢の活躍は目覚ましい。野沢と鈴木慎に次いで、
久々に新潟にスター候補が生まれたかもしれない。数少ない地元出身(他には欠場中の
MF本間だけ)ということを抜きにしても、その存在感と動きには素人目にも何か光るものを
感じる。上に掲げた写真ではちょっと気どってるが、非常にいいやつ感が漂ってるし。
あとボランチシルビーニョが非常にいいのが大きい。凄いキープ力があるからタメられるし、
パスは鋭くて正確で、目がいい上に頭もいいようだ。シルから前へ出た田中へのパスで何度も
チャンス作っていて、事実1点目はそのラインから生まれた。ルックスといい、どこか浦和の
ポンテを思わせる、というのは贔屓目だろうか。少なくとも解雇した桑原を補って余りあるし、
かつて中心となっていた元代表山口(現横浜C)に匹敵するかそれ以上だろう。
とにかくそういった諸要素の活性化は、今後にとって測りがたいほど大きいはずだ。
ただしそこにエジミウソンが戻ってきたときに、はたしてこの機能性を巧くフィットさせ
維持できるか、そこが先行きどう転がっていくかの鍵にもなるだろう。
そう想像するにつけても、なんかワクワクする。なんだかアルビ新潟が初めてまともな
J1のチームになりはじめたかもしれない、みたいな期待感? それはある意味反町対鈴木の
新旧監督の真の戦いの始まりかもしれない。アルビ人気がここまでになった内実のたぶん
7割方は、〈男前〉の渾名を冠された反町康治という希有な個の人気だったのだから。
折しも来年の大河ドラマは『風林火山』と決定した(謙信役はGackt)。