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『クラシック・ミステリのススメPart1.』

巷で噂の(?)『クラシック・ミステリのススメ』を早速入手した。ちょっと撮りが下手糞だが…↓
これが表表紙。
こちら裏。
ヴィンテージ・ミステリ・クラブ著、エディション・プヒプヒ発行、頒価1250円だが、インディーズ出版物のため入手はすでに超困難のようだ。つまりこうして紹介する主目的は、そういうものを早めに手に入れられたのを自慢するためであることを否めない。といってもべつにコネで回してもらったとかいうわけじゃ全然なく(そういうことはやらなさそうだ)、一時的にメジャーなネット書店に入荷されたのを見計らい即注文して買った。まあいずれ大増刷されるだろうから、自慢できるのも今だけだが。
で肝心の内容は、要するに90年代から静かなブーム(というのが当て嵌まるのか判らないが)が続いている英米の旧い探偵小説の邦訳書を全作余さず紹介するガイドブックだ。全部といっても中心となる世界探偵小説全集(国書刊行会)だけでも4期60余作もある上に、近年論創社や長崎出版等便乗的(というと失礼だが)叢書が続々登場してきたためかなりの数に上る。それで──実は迂闊にもこれ買ってみて初めて気づいたが──今回の『ススメ』はPart1.つまり上巻で、下巻は今年の冬に出る予定らしい。でこの上巻では国書の全作と新樹社・原書房小学館の各該当作全てについて、1作1ページの割で粗筋とか読み所などを紹介してる。1作につき評者2人が半ページずつ各1文を書いてるので、読み方や評価が1つの評のみに偏らないようになってる。
執筆は杉江松恋(クラブ代表)・川出正樹・村上貴史・霜月蒼・古山裕樹ら創作集団逆密室メンバーを筆頭に70〜80年代生まれの若いミステリ・ファンらを加えた総勢20人弱。逆密室自体は慶応系だが、巻末の紹介欄見るとこのクラブはワセミスOBや他大学ミス研者も多くてバランスよさそうだ。〈泥棒〉とか〈笛〉などHNらしき素敵な筆名の人が多い中で酒井貞道という人がいて、そのブログ覗いてみるとミステリ・ファンの間では有名な(らしい)あのサイトだった。→http://d.hatena.ne.jp/Wanderer/
でふと気づいたんだが、俺この人と一度だけ会ってるんじゃないか? 去年の鮎○賞の二次会で。こっちはギョーカイにめちゃくちゃ疎いものだから何も知らなくて、「サカイ」という名前だけ聞き出せたものの詳しくは判らず仕舞いで気になってた。なるほどそういうことだったんだな(つっても確かめたわけじゃないから断言はできんが)。でその酒井さんがこの本の中で杉江氏と並んで『赤い○手』の紹介を担当してるんだが、杉江氏がどちらかというと否定派(?)なのに対し「明確に肯定」と書いてくれてるのが嬉しいよね。尤もその直後に「本書に限っては否定も理解できなくもない」っつーお約束の但し書きがあってニヤリとさせるが(実をいえば俺自身客観的になった場合はやや?否定派だ)。
ところでその『赤い』も含む国書の全集の仕掛け人にしてこの「クラミス」ブームのおそらく最大の功労者であろう(近年では晶文社や河出書房でも大ヒットを連発してる)藤原義也氏へのロング・インタビューが巻頭にあって、本書の目玉になってる。いつもながら自身の功には控えめ極まる藤原氏だが、その中でバークリーの傑作『ジャンピング・ジェニイ』の訳者(狩野一郎)が実は自分であることを初めて公にしてる。聞き手の杉江氏は知らなかったと驚いてるが、ふっふふその件ならおいらは初めから知ってたぜ──って、これまた自慢にゃならないか。
そんなことは別にして、とにかく本書はこれまでありそうでなかった好企画にして大労作。何しろクラミスは比較的高めの本がほとんどで(2000円以上)、気になっても新刊本にすぐに手を出すのはどうしても躊躇いがちだから、こういう網羅的な案内書があるとほんと参考になる。下巻も順調に出てほしい。