.

『暁の群像』南條範夫

末國善己さんから南條範夫『暁の群像──豪商 岩崎弥太郎の生涯』(作品社7/25刊)を頂戴しました!

野村胡堂伝奇幻想小説集成』(http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20090626)をいただいてからまだ間もないもに早くも…という編者末國氏の旺盛さには目を瞠らされる。
今回は明治維新の動乱期に三菱財閥を興した天才実業家岩崎弥太郎の物語とのことで、作者は人気武士道漫画『シグルイ』の原作者として近年復活を遂げた(らしい)南條範夫。といっても漫画にまるで疎い大河ドラマファンにとっては『元禄太平記』の原作者というほうが先に立つが、とにかくこの本は経済学者でもあるという時代小説作家の手になる「幕末維新史を経済の視点から切り取った稀有な作品」(末國氏による「解説」より)だという。それと何より肝心なのは、帯にあるように主人公岩崎弥太郎が来年の大河ドラマ龍馬伝』(福山雅治主演)で坂本龍馬に次ぐ重要人物として登場する予定であること(配役・香川照之)。つまりこの本の復刊は、小生に倍する大河ファンである末國氏による企画なればこそ実現したものに相違ない(事実これまでも『軍師の死にざま』『軍師の生きざま』等の本を企画してその筋からの評判をとっている)。本書自体単なる傑物の立志伝ではなくタイトルどおり維新の「群像」劇として龍馬をはじめ多様な人物を登場させているようだ。とくに作者は貪欲な成功者だった岩崎弥太郎と無欲な理想人龍馬とを対比させているらしく(ともに土佐人だった)、そのあたりまさに『龍馬伝』の副読本として適しているだろう。また個人的にいえば、新潟県人は幕末や維新というといまだ被害者意識を引きずっているせいか理想論ばかりいわれてもつい懐疑的になりがちだが(大河に対してもそうだ)、こういう経済人が描かれていることで何かしら新たな見方が得られるかもしれない。
暁の群像――豪商岩崎弥太郎の生涯