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西崎憲『ゆみに町ガイドブック』

海外小説の翻訳・編纂の名手にして作家でもある(他に映像や音楽も創ってるらしい)西崎憲の新刊小説『ゆみに町ガイドブック』(河出書房新社)。といってもこれまた早くも昨年後半のことになってしまったが。

ゆみに町(ちょう)という架空の町をめぐる連作集めいた長篇小説、と言えば言えるかもしれないが、これが何とも変わっている。いや、変わった小説と言えばこれ以上変わってるものもないというほどのファンタジーノベル大賞受賞作『世界の果ての庭』の作者のことだから風変わりなのは当然かもしれないが。まず記述からして〈わたし〉〈自分〉〈雲マニア〉の3つの視点で代わるがわる書かれていて、前の2者は一人称で〈雲マニア〉は三人称になっている…ようだが、はたしてたしかにそうかは読み終えても心もとない。とにかく〈わたし〉という女性作家が中心の視点になってて、最初のほうで「ゆみに町についてガイドになることを語ろう」と宣言して語り始めるのだが、あとは不思議な言葉がどんどん沢山出てきて、どんどん奇妙奇天烈な世界へ連れていかれる。アルルカン、デスティニーランド、イプシロン、記憶子、固着、特異点、ワイルドハニーバニー、背高、キング、飛異、etcetc…こうした特異な言葉の数々が説明もなく読者の解釈や想像に任せるように次々と出されるところはちょっとP・K・ディックを思わせたりもするが、この作者はどうやらもっと意図的で、ひょっとするとこの小説そのものがそういう独特過ぎる言葉の持つ力を試すためのものなんじゃないかとすら思えてくる…が、そんなまとめみたいな感想は出す必要もないし当たってもいないだろう。とにかく読んでみなければ判らないと言うしかないこの不思議な味わいはほんとに読んでもらわなければ判らない、といい加減?なことを言っておいたほうがいいかもしれない。この作に先立つ『蕃東国年代記』(新潮社・こちらは2010年の刊だがやはりいただいたきりになってしまってる)は日本海に浮かぶという架空の国蕃東(ばんどん)を舞台にしたまさに蜃気楼のような絢爛たる幻想の物語世界だったが、この『ゆみに町』はそこからはまたガラリと変わった、地に足のついた日常世界にある町のお話のように創られているところが面白い。いやあこの作家の世界観ってほんっとに独特だなあとあらためて思わせられた。そして忘れていた何かに気づかせられたようでもある。
というわけで西崎さんありがとうございました!
ゆみに町ガイドブック 蕃東国年代記