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『NIGHT LAND』創刊!

ここ→(http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20120118)で触れたホラー&ダークファンタジー専門誌『NIGHT LAND』創刊号がついに出た。
http://www.trident.ne.jp/j/NL/mag/2012Spring.html

↑写真右は『幻想と怪奇』誌の「ラヴクラフト=CTHULHU神話特集」号(1973歳月社)。ちょうど手近にあったので並べてみた、『NIGHT…』のほうも「特集ラヴクラフトを継ぐ者たち」なので。前者からもう40年近くも経ってるのかと思うと驚く。総ページ数ではそちらのほうが100ページ以上も厚いが、特集関連では質量ともに後者も全く負けていない。とくにクトゥルー神話の海外実作品(小説)の訳出紹介では前者が3篇なのに対し後者は7篇。そのひとつを担当させてもらえたのはまこと光栄の至り(ティム・クーレン「沼地に潜むもの」)。といっても訳自体はいつもながら悔いばかり残る出来で足を引っ張ってる感を否めないが… でも楢喜八画伯の挿絵が期待を超える素晴らしさで、訳の不出来を補って余りある。『ウルトラQ』の伝説の某怪獣を彷彿させる妖異をモロに描いてくださってるのには快哉を叫ぶ。
スコッチ・カーソン「ルイジアナの魔犬」(田中一江訳)はタイトルから察せられる例の〈犬ども〉を素材にした新たな可能性を感じるアクション・ホラー。グリン・バーラス&ロン・シフレット「ウェストという男」(金子浩訳)はこれまたタイトルにズバリ採られてるかの〈死体蘇生者〉がテーマで、こちらはなんとハードボイルド・タッチのスプラッタ・ホラーでハンパないエグさ。レイフ・マグレガー「ダイヤー神父の手紙」(増田まもる訳)は博識と諧謔の入り混じる生物学ホラー。サイモン・ブリークン「扉」(田村美佐子訳)はまさに〈扉〉の向こうに待ち受ける恐怖をシンボリックに描く暗喩ホラー。というようにバラエティーに富んだ新世代〈神話〉群で、これと近年の『SFマガジン』の特集号(2010/5)を併せ見れば、少なくとも英米現代クトゥルー界のおおよその雰囲気なりとも感じとれるんじゃなかろうか。
さらに名作発掘としてR・E・ハワード「矮人族」(中村融訳)とラムジー・キャンベル「コールド・プリント」(野村芳夫訳)も訳載され、旧作紹介の今後も期待させる。ハワードは自分的にも嘗て係わったことがある(『黒の碑』)ので関心があったし、キャンベルは同タイトルの作品集を以前通読してるので「おおついに」感があった──ただし情けないことに後者は中味をよく憶えていない、一応簡略なレジュメまで書いたはずなのにorz(しかも今回読んで鮮烈な印象を受けたのは、当時の自分の読解が足りなかったからかもしれない…) 他に特集関連文献としてコリン・ウィルソン「魔道書ネクロノミコン 捏造の起源」(森瀬繚訳)も興味深い。
連載物では、朝松健の長篇小説『The Faceless City』(♯1狂雲師)はアーカムを舞台にした邪神探偵神野十三郎の活躍譚で、短いながら流石の濃密さと迫力。立原透耶「Asian Horror Now」では今回は台湾YAホラーの旗手・鐘霊を紹介。朱鷺田祐介「金色の蜂蜜酒を飲みながら」は〈神話〉とゲームの関連を解説。鷲巣義明「ファンタスティック・シネマ通信」は今回は"The Thing"の新作リメイク(!)を採りあげててびっくり。森瀬繚&マット・カーペンターの「クトゥルー・インフォメーション」は内外の新刊〈神話〉出版物を網羅していて参考になる(『幻夢の時計』も紹介してくださってる)。リレー・エッセイ「私の偏愛する三つの怪奇幻想小説」の初回は西崎憲「三つの光」で、レ・ファニュはじめ3作家3作品を採りあげている。
また特別エッセイの東雅夫「怪奇の架け橋」では"Kaiki: Uncanny Tales from Japan"(黒田版プレス)編纂の経緯が語られていて、世情に疎くて恥ずかしながら同書を見逃してた小生はすぐAmazonに2巻本を注文した。
こうして見ると、今回の特集以外でも本誌がクトゥルー神話関連にとくに力を入れていることが窺えて頼もしい感じがする。
なお次号は6月発売予定で、特集「魔道書」「怪物」とのこと(小生もまた1篇担当させてもらって升)。
というわけで編集Mさんご苦労さまでした&ありがとうございました… &出航おめでとうございます!