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『この空の花』

随分久しぶりに映画館で見た映画、『この空の花』。監督大林宣彦
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驚いた。まさかこうなってるとは思わなかった。発売中の『映画秘宝』6月号での監督ロングインタビューで3000カットという途方もないカット数になったと言っていて(通常は500程度らしい)、パンフレットでの某氏との対談でも「見る者の頭が追いつかない映画」という言い方・言われ方をしていて、どんな感じなのかちょっと想像がつかなかったが、見て判った、たしかに頭が追いつかない。情報量の圧倒的さ加減といったらない。それも冒頭からいきなり。一時も目が離せない、なんて言うとよくあるありきたりなホメ言葉のように見えるかもしれないが、そういう次元のことじゃなく、〈字義どおり〉の意味で〈物理的に〉目が離せないってことだ。2時間40分。内容については敢えて伏せる。ネタバレどうこうというわけじゃなく(そもそもそういう映画じゃない)、変に語ることによって自分なりの意見や感想を今のうちから醸成してしまわないほうがいい気がする。映像と情報がナマのまま頭に焼きついてる、それだけでいいんじゃないか。1つだけ言うとすれば、尾道3部作のような何となく〈大林節〉めいた雰囲気を期待していくと裏切られるってこと。それともう1つ、これはまず何よりも「戦争映画」であるってこと。但し従来の内外のどんな戦争映画とも違う形の。にもかかわらず、インタビューやパンフレットで言ってるようにある意味での大林映画の集大成的なものでもある──のかもしれないが、しかしそんなふうにまとめるのもまたあまりいいことじゃないだろう。とにかく凄い映画だ。「戦争」「3.11」といった観点を抜きにしても(抜きにはできないが)、純粋に映画として凄い。あと舞台となった土地の地元民としてもう1つだけ言えば、柄本明の長岡弁はかなり真に迫ってた。ついでに言えば(って既に語りすぎかな)、「煮菜」を長岡ではニナと言い隣町の栃尾では「ニーナ」と発音するという余所の人にはあまりにもどうでもいいにちがいない豆知識が出てきたのには、栃尾出身者のおいらは吹き出さずにはいられなかった。











ところで大林宣彦映画には個人的に思い出がある。昔狭山に住んでたAさんを訪ねたとき、「帰りまでに時間があるなら東京で『HOUSE』という映画を見ていくといい。TVCM出身の監督でCMをつぎはぎしたような変わった映像だから」と勧められ、それじゃと見たのが期せずして大林のメジャーデビュー作だった。つまりその年は同作公開年の1977年だったことになる。その後大林はあれよという間に巨匠っぽくなっていったが、最初の『HOUSE』が米ホラー映画『家』のパロディだったこともあり(今では本家のほうがすっかり忘れ去られてるが)、ホラー映像作家としての大林というイメージが何となく続いてる。その意味では『さびしんぼう』や『異人たちとの夏』のような怪談要素のある映画もあるが、一番印象的なのは火サス枠でやったTVドラマ『麗猫伝説』だ。大林作品の常連である入江たか子・若葉母娘が主演という異色作で、哀愁の濃い怪奇美に本領を見た気がした。そういえば今回の『この空の花』にもどこかにそういうものが含まれてるようにも思う(因みに入江若葉は今作にも出演してる)。
HOUSE [DVD] 麗猫伝説 [VHS]













最後に『この空…』で片腕のサックス奏者を演じた坂田明(作中で実際に片手で吹いてる)が嘗て在籍して一世風靡した山下洋輔トリオの名曲「キアズマ」をUPしたので貼っておく↓。勿論映画とは何の関係もないが、まあ因みにってことで。1975年のドイツでのライブ録音。










もう1つオマケ。シネコンに飾られてた『貞子3D』の貞子。