.

妹尾アキ夫

『妹尾アキ夫探偵小説選』(論創ミステリ叢書)。

妹尾アキ夫は『幻影城』誌で知った作家の中で狩久と並ぶフェイバリット。ついにこの叢書に加えてくれた編纂者横井司さんに拍手。実はこれまで山前譲さんにパーティーなどでお会いするたびに(と言っても2度だけだが)「妹尾アキ夫って出せませんかねー?」などと煽ったりしていたが、最初のときこそ「そうそう妹尾ってそろそろいいかもしれないんだよね、考えとくよ」みたいな受け答えで結構好感触だったものの、次のときにはもう忘れてたようだったので以後ほとんど諦めてた。だがここにきて論創&横井氏という伏兵?コラボが山前氏も真っ青のもこの急躍進の大叢書で実現されてくれたのは快挙というしかない。
で内容は創作のみならず評論随筆まで充実させていて万全の構成。創作では「人肉の腸詰」「恋人を食ふ」「リラの香のする手紙」等のアンソロジー・ピースは勿論のこと「十時」「壜から出た手紙」「夜曲」「林檎から出た紙片」「黒い薔薇」等初紹介作も多く、20篇中11篇が初というのが心強い。で全篇読み、いずれも期待を裏切らない佳篇揃いで(勿論秀作のみを選んだはずだから当然だろうが)堪能した。初物のうちとくに「夜曲」はお得意の音楽物の1つで「エーリッヒ・ツァン」や「チェリアーピン」にも通じそうな硬質な恐怖旋律が魅力的。ただ全作中ではやはり従前どおり「密室殺人」が個人的な最秀作。一見ありがちですらある物理トリックを詩に昇華するこの作家の真骨頂。気づいたのは「解題」で「本牧のヴィナス」の『幻影城』76/5月号での再録に触れられてないこと。見落としか故意か? なんてことが気になるのは、この作家に魅せられたのがそもそも同誌同号で「本牧のヴィナス」を気に入ったのがきっかけだったため(気に入りすぎてファンジン『恐怖省』に転載したほどだ、但し流石に手書きじゃなくコピーでやったが)。まあ万事に(カラオケにも)抜かりない横井さんのことだから、雑誌再録ってことでわざと触れなかったんだろうが。
評論随筆篇ではやはり胡鉄梅名義による『新青年』での書評欄「ぺーぱーないふ」に注目。寸鉄人を刺す鋭い短評として名のみ高かったが、初めて目にしてこれまた噂にたがわぬ歯に衣着せなさと判った。なお胡鉄梅の正体は単独説複数説も含め当時から議論があったそうだが、妹尾自身は自分ではないと否定し通したらしい。横井氏の解釈は「少なくとも執筆者の一人であったことは疑いをいれまい」。因みに妹尾当人の作品についてはややケナし気味に評していて、本人かもしれないと思うとニヤリとさせる。


ところで妹尾に関しては訳書もちょっと集めてる、コレクションというほどじゃないが。↓これはその一部。





























.