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竹本健治『かくも水深き不在』/朝松健『弧の増殖』

竹本健治『かくも水深き不在』(新潮社)を読み、脳内のフキダシに浮かんだ第一声。
ぎ… ぎゃははははははは!… ということになる。
いやこれはそうならざるをえんでしょう。いやこれは凄いね。おいらにも判るほど痛烈。
蓋し竹本健治氏の小説というと量子論囲碁・ゲーム等々おいらの苦手なペダントリーで満ちているんじゃないかとつい不安に駆られてしまいがちだが、これはそんなことが全然なかった。また連作集の形をとってるのだが、雑誌連載時に読んでいなかったのも幸いだった… 読んでた人たちの報われなさを思うと…
というわけで今年の○○ミスNo.1はこれで決まり──と言いたいところだが、それだけじゃ済ませられないものがここにはある。
かくも水深き不在




朝松健『弧の増殖 夜刀浦鬼譚』(エンターブレイン)を読み、脳内の空洞に響いた叩音。
G… GOOOOOOOOOOOOONNNNNNnnnnnn…
むむ、これは激しく響く。衝いてくる。…夜刀浦の闇はまた深まったようだ。
都市伝説・猟奇事件・ケータイ・電波・サイコ… というと当節流行の素材のように見えがちだが、ここではそういうことじゃない。もっとずっと根源的なものとして扱われてることが判る。ク○〇○○とも簡単に言ってしまいたくない。もっと本当に深淵だ。
というわけでおいらは強く触発された。
弧の増殖 夜刀浦鬼譚




ところで竹本氏と朝松氏にはある共通点があって、両氏とも東洋大学のOB。竹本氏が文学部哲学科中退、朝松氏が文学部仏教学科卒業だが、年齢で前者が2つ上なだけなのでひょっとするとどこかで擦れ違ったりしているのかも(尤も竹本氏は授業にはあまり出ないで専ら囲碁に専心してたとのことだが)。でその東洋大学創立者井上円了は他でもないわが地元長岡の出身(厳密には大合併で編入された旧越路町で生家の慈光寺は今もある) …というのはおいらにまで繋げようというこじつけだが、それはともかくとしても、竹本・朝松両氏の描く世界は分野や見た目こそ大きく違え本質的なところで何かが通底しているような気がするのはたしかだ。だがそれは何だろう、まだ巧く言葉では言えない。何やら黒々とした奥底の怖いものといった感じではあるが…




ところでちょうど今出てる『HMM』12月号「ゴシックの銀翼」(クリスティー賞作・中里友香「カンパニュラの銀翼」に因んでの特集)で朝松健氏がゴシック映画に纏わるエッセイ「塔と広間のある銀幕」を書いてる。と同時に要注目なのは訳載されてる2短篇(ニスベット「幻のモデル」・ゲラー「謎のメイジー」)の訳者が植草昌実氏であること。作品選択も植草氏とおぼしく、両作とも井上雅彦氏の短篇を思わせるような審美眼が流石。因みにこの植草氏も東洋大学出身。やはり円了大師のなせる奇縁か…
ミステリマガジン 2012年 12月号 [雑誌]


いやーしかし作家の人たちってよく考えるよねあんなことやこんなこと…















































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