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インサイダーたち

館島 (ミステリ・フロンティア) 『ギロチン城』殺人事件 (講談社ノベルス) 扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル) 誰もわたしを倒せない (ミステリ・フロンティア)
東川篤哉『館島』(東京創元社ミステリ・フロンティア)
北山猛邦『『ギロチン城』殺人事件』(講談社ノベルス)
石持浅海『扉は閉ざされたまま』(祥伝社ノン・ノベル)
伯方雪日『誰もわたしを倒せない』(東京創元社ミステリ・フロンティア)

経験を形成する間断のない観測は経験世界の内部からのみ生じる──K・M

といってもまたこじつけだが。要するに本格ミステリの密室とか館とか孤島の〈中〉は
経験世界そのものの暗喩だ……なんてね。
前の二つは文字どおりの館・城で、どちらも最後に明らかになる大仕掛けが
笑ってしまうほどになかなかすごい。またそれだけじゃなくて、どちらもそれぞれに
叙述上に工夫もあって、ガジェットのみじゃないという意識があるのもいいと思う。
いやべつにガジェットのみでもこれだけ抜け抜けとやってくれてれば、
筆者はそれでもいいんだけど(ある理由から『ギロ…』はとくに好き)。
『扉は…』はまさに密室への扉を前にして犯人と探偵が推理と心理の攻防を繰り広げる。
彼らは閉じたままの扉の〈外〉にいながらも、内部観測を強いられる。経験世界の観測に
客観観測=外部観測はないことの暗喩だ……なんてね。すでに世評の高い作のようだが、
じつはそんなに好きというわけじゃない。なんだかあまりに優等生すぎるようで……
というか、なんだか東野圭吾が書きそうな作で。まあ東野よりは好感持てそうだけど。
『誰も…』には前三者とはまた別の意味での内と外がある。つまりプロレスor/and
格闘技という世界の。そんな超異色の舞台ながら、その世界をリアルに描いた小説として、
と同時にミステリとしても大まじめ。解説の笹川吉晴は「ミステリとは何なのかという
問いかけが浮かび上がってくるはず」とする。そう、たしかにプロレスの中の人≒
ミステリの中の人という提起がここにはあるかもしれない。ちなみに同解説は超力作。