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丸山良明

アルビレックス新潟の奇跡―白鳥スタジアムに舞う (Big comic books)
丸山良明といってもアルビレックス新潟ファンでなければぴんとこないかもしれない。
昨季までアルビのDFの要だったが、試合中の負傷で長期離脱し、おそらくはそれが主な理由と
なってオフに解雇された。怪我はまだ癒えず、今は東京でリハビリしながら少しずつ練習し
はじめているらしい。引退などは考えず、別のチームに採用され復帰することを熱望している
という。東京生、帝京・早大横浜F・マリノスを経て02年にJ2新潟入り、04年のJ1昇格に
貢献。その丸山がつい先日旧友だという帝京長岡(県大会優勝校)の監督に呼ばれて同校
サッカー部員の前で講演し、その模様と経緯がNHK新潟および民放ローカルで特集放映された。
アルビといえば現在J1で実力的にはおそらく一番下位のほうにあるチームで、しかも日本代表
が現役ではまだ一人もおらず(〈元〉がつく選手さえ過去現在を含め数えるほどしかいない)、
新聞のサッカー記事で話題にされることはほとんどない。そんなチームだが、唯一知られて
いるのはサポーターの異常なほどの数の多さだ。ホームの新潟スタジアム(ビッグスワン)では
昨季毎試合4万人以上を記録した。だから、アルビという弱いチームの選手たちは全国的には
まったく無名だが、県内ではどこへ行っても大スターだ。こういう現象はたぶん他では
有名強豪チームでも見られないんじゃないか。有名チームでも人気があってちやほやされる
のはどこでも代表クラスだけだろう。だが新潟は違う。アルビの選手というだけでスターだ。
だから新潟サポは親バカだとかかつては他サポに陰口を叩かれたりもしたが、そこが新潟の
余所にない大らかな(というかいかにも田舎県らしい)ところだ。だからこそローカルTVも、
怪我のあげく戦力外となった全国的には無名の選手のその後を追跡する。丸山は帝京長岡
生徒たちに新潟でのわずか4年間の充実した選手生活を語り、同時に解雇の驚きと落胆の
大きさを語り、必ず敵となってアルビを見返してやりたいと誓う。すでに30才をすぎている
うえに復調しきっていない身では、その希望をかなえるのはたやすくはないだろう。だが決して
そこで諦めたりはしないことが、アルビへのまたアルビサポへのメッセージにもなることを
彼はわかっている(もちろん第一には他人のためじゃなく自分のためにそうしているのだが)。
そういう姿勢に、全国大会へ向かう帝京の選手たちは大いに勇気づけられたはずだ、有名選手の
講演なんかを聴くこと以上にずっと(帝京の一回戦の相手は明徳義塾で、勝ち進むのは容易じゃ
ない)。ちなみに解雇されて見返した最大の好例は、現在川崎フロンターレのMFマルクスだ。
アルビ在籍時はFWで昇格季に得点王となって最大の貢献をしたが、なぜか直後に解雇された。
川崎ではジュニーニョの陰に隠れてはいるものの、昨季来の快進撃の要となり、チームは新潟に
大きく水をあけた。そして今季第一節であたり、新監督下のアルビは0−6大敗を喫した。
自らも得点したマルクス快哉どころか、弱くなったアルビを嘆きすらしたかもしれない……
とにかく、丸山にもそんな例を励みにしてほしいものだ。まだ決して無理なことじゃないだろう。