.

ノロイ

ノロイ プレミアム・エディション [DVD] ノロイ―小林雅文の取材ノート (角川ホラー文庫)
実録モノ系怪奇映像作家白石晃士監督の、これまた一瀬隆重プロデュース作。
TVCMで流れてたときから何か気になってた。見てびっくり。
これは凄い。落合正幸のさらに上を行くホラー監督が現われた。
というより、この人は全然別種だ。あまりに異質だ。
要するに実録系なのだが(TVの心霊ネタ特番系)、その徹底ぶりが凄い。
キャストやスタッフのクレジットが一切なく(少なくともこのDVD版はそう
だった)、出演者はすべて実名。霊能者?や子役にいたるまで。映像はすべて
怪奇実話作家?小林雅文(実名)の帯同カメラマンによるかそれに順ずるもの。
ストーリーというかネタ自体は実はけっこうありきたりで、実話作家が
ある心霊ネタを取材するうちに被取材者が次々変死し、その背後に凄いことが…
というもので、その点ではわかりやすいとも言える。たぶんわざとそうしてる。
だから問題は徹頭徹尾映像だ。まず、ここには一切の演技がない。というより、
従来的な世間的な意味での演技というものが完全に排除されてる。つまり
役者はいわゆる演技をすることを拒絶されてる。そして映像は徹底的に
リアル?をめざす。ただしここで?を入れたのは、これまた従来的な世間的な
意味でのいわゆるリアルじゃないからだ。肝心なのは、いわゆるリアルであろうが
なかろうが、見るほうがこれを事実(ノンフィクション)だとは誰も最初から
思わない、という前提があること。所詮リアルっぽいにすぎないってことだ。
だとしたら、徹底的にリアルにこだわることは実は意味がない。フィクションと
いうのはたぶんそこで成り立つ。役者がいわゆる演技(いかにも演技らしい演技)
をし、ストーリーも現実から浮遊した展開をすることがむしろ自然とされる。
それがフィクションだ。だが、たとえばこの『ノロイ』もフィクションであることを
撮る側も見る側も前提にしてはいるが、これがちがうのは、それでもあえて
フィクションでないかのようにふるまおうとしてるってところだ。つまり無駄な
努力をあえてしてる。どれだけリアルに創ろうが、見る側は「こんなのあるわけない
じゃん」と言うに決まってる。だったら普通のフィクション創ったほうが簡単だし
合理的なはずだ。なのにこれはあえてバカなことをやってる。それも徹底的に。
アマゾン評を見ると、予想どおりわかってないやつが「役者の演技がまるでダメ」
とか言ってる。あったりまえだ、演技なんか初めから誰もする気ないんだから。
あと、例によって引き合いに出されるのが『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』だ。
たしかに手持ちカメラの映像がすべてだから、一見そう思われるかもしれない。
だがこの映画の祖先はむしろあの『邪願霊』だ。それに第一『ブレア』より
はるかに手が込んでるし金がかかってるし、何よりも気合というか欲望?というか
メンタル面の激しさがちがう。とにかく圧倒される。とくに霊能者?をやった
堀光男の怪演?が凄まじい。ある意味主演の松本まりかもよかった。
きっとすっごくむずかしかっただろう、こういう演技っぽくない演技を終始
要求されるってのはむしろ。また狂言回しの小林雅文もいかにもそれっぽい
いい味出しきってた。
未見だが角川ホラー文庫でこういう副読本ぽいのが出てる。これも興味あり。