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舞台『黒革の手帖』

natsukikenji2006-10-07

黒革の手帖 DVD-BOX
日帰りながらめったにない上京の機会なので、明治座に見にいってきた。こんなでかい劇場初めて入った。1階・2階席だと12000円もするので、5000円の3階席へ。それでもナマ米倉涼子を見るには充分……のはずが、2列席の後列のため、前で手摺りに身を乗り出して見入ってるオバタリアン──てのはもう死語か、おばさんたちの(つってもこっちもおじさんだが)頭がじゃまになってまるで見れない。しょうがないから、さらに上の通路で立ち見することに。
なかなかよかった。実質2時間ちょいぐらい(昼食および2回の休憩を挟むので総じて4時間ちょいぐらい)を、札束のやりとりに終始するみたいな実をいうと地味めなストーリーで持たせられるのかなとちょっと心配したが、そこがなかなか巧く作ってあった。めまぐるしく替わる35場の場割は、パンフレットでの演出家の言葉によると「常識を逸脱した場数」だそうだ。それによって、クラブ・バー・喫茶店・事務所・公園等々で大金と不動産権利を巡る脅しと騙しの密談がリアルに展開されていく。「金額」とか「法的権利」とかいった一見演劇的じゃないかのような地味な要素要素が、リアルであるだけに次第に迫真性を持っていくというのは、証拠とか論理とか具体性が大事になる推理劇に通じることなのかもしれない(なんて、推理劇なんてもの見たことないくせに)。
……などと、ついまじめであるかのように語ってしまったが、本音は例によって米倉涼子が見れりゃそれでいいわけで。そして舞台も役者も彼女が引き立つために役立ってりゃそれでいいわけで。よかったというのは、その意味でもすべてがなかなか巧く行ってたってことで。配役は主役以外はドラマからは一新した。テレビ版で話題になった女のバトル相手は釈由美子から遠野凪子(米倉と同じオスカー)へ。クライマックスでのこの二人の格闘シーンがとにかく物凄い! ありゃもうプロレスだ。殴り、投げ、倒れ、ぶつかりで、米倉なんか投げられてソファの背を横ざまに飛び越えるんだからね。あれを昼夜2回ずつ連日一月もやりゃ、生傷や痣ぐらいできるだろうな。テレビでは水ぶっかけだけだったが(でも名シーンだ)、これには唸った。あと左とん平金田龍之介北村総一朗ら、夜の銀座で女遊びに興じながら札束数えてる生臭い男たちがどれも適役でよかった。とくに左とん平のちょいワル、じゃないかなりワルさ加減は絶品だ。キーパーソンになる岡本健一もラストでは凄みが出ててよかった。テレビ版と違ってヒロインの悲惨な末路を描ききる展開は原作にわりと沿ってるらしいが(遺憾ながら読んでない)、嫌な感じはせずむしろカタルシスがあった。
あとセットが面白かった。早い場面転換のため、上下2段の空間を備えたセットを回転させる仕掛けが効果をあげてた。その転換時にタンゴを流して男女ペアが踊る趣向も、激情と悲哀が表裏するテーマにぴったりだ。
カーテンコールでは、しんがりで階段を降りてくる米倉の素敵さに鳥肌が立った。最上段の通路で独り立ち見しながら拍手するおれと一瞬目が合ったかもしれない?
※絵は左がテレビ版『黒革の手帖』DVDボックス、右が舞台版ポスター。