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『ヘルファイア・クラブ』『赤朽葉家の伝説』

ヘルファイア・クラブ下 (創元推理文庫) ヘルファイア・クラブ上 (創元推理文庫)
赤朽葉家の伝説
たまたま版元が同じなだけでなく、どちらも女性主人公(『赤』のほうは語り手だが)が大資産家である自分の家(『ヘル』のほうは嫁ぎ先だが)の隠された過去の秘密を探っていく話。またどちらも名実ともにホラー小説ではないにもかかわらず、どちらもどこかしらに怪奇小説的ななにかを潜ませているようだ。ピーター・ストラウブのほうはもともとがホラー作家だという先入主もあるかもしれないが、しかし『夜の旅』と題された謎めいたベストセラー小説、ショアランズなるこれまた不思議な雰囲気を湛えたリゾート、怪しげな組織ヘルファイア・クラブといった主要要素の醸し出す雰囲気は、やはりホラー寄りのものだ。同じ創元推理文庫の『ミスターX』(クトゥルー神話が本格導入された稀有な長篇ホラーだ!)でもそうだったが、この作家はこういう方向での〈謎〉の深め方というか謎への引き込み方が巧いので、長丁場でも飽かさずその世界の奥へ導いてくれる。「凄い何かが待ち受けてるぞ」という期待感をじわじわ煽り、またその期待を裏切らないだけの深みにまで持ち込むというのがやはり凡手じゃない。その意味で、解説の霜月蒼氏が、高文学性という従来のレッテルでは語れないリーダビリティ溢れるノンストップ・コースター・サスペンスである点を強調しているのには、まったく同意すると同時に、その点を裏で支えてるのはやはり独特の謎の深甚さであろうとも思う。(因みに『ミスターX』の解説で東雅夫氏がクト系作品であることをことさら強調していた点にも、まったく賛同しながらも同様の反面があるとは感じざるをえなかった)。なんて、またちとナマこいたが。
一方の『赤』のほうは、勝手に漠然と予想していたお屋敷物本格ミステリではまるでなくて、なんと戦後史の脈動を背景としたある製鉄大資産家一族の興亡とその内実の秘密を描いたもので、それが独特の語り口の力もあって何とも新鮮な驚きを与えてくれた。最大のキャラは漂白民から一族に嫁いだ万葉という女性で、この人物が千里眼で一族メンバーの死を予見するところがポイントだが、しかしこの小説に何かホラー的なものを感じたのはその点があるからってことだけじゃなさそうだ。やはりそれはストラウブにも通じる謎の深め方ということになるんじゃないか。ところで本作は終盤になって唐突に謎解き物の作りになるが、それは作者が狙いでわざとやってるのであって(たまたま買った2/16『日刊スポーツ』の作者インタビュー(顔写真付き)でその辺を語ってた)、その奇妙なアンパランス感こそが実はこの小説の勘所かもしれない。ところで作者は同インタビューで、「何らかのフィクションを背負った人たちが描かれる中で、フィクションを持たない瞳子が探偵役になった」という意味のことをいってたが、『ヘルファイア・クラブ』でも探偵役のノラは、やはり自らのフィクションを求めて謎の深みに嵌っていったような節がある。そんなふうに考えると、こういう較べ読みもなかなか面白い。
なんて、またちとナマこいちまったな。