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ずっとお城で魔道衆

natsukikenji2007-11-04

バッド・チューニング 処刑者たち〈上〉 (ヴィレッジブックス) 処刑者たち〈下〉 (ヴィレッジブックス) D-魔道衆 吸血鬼ハンター19 (朝日文庫 ソノラマセレクション) 山本周五郎探偵小説全集 第二巻 シャーロック・ホームズ異聞 山本周五郎探偵小説全集 第一巻 少年探偵・春田龍介 ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)
本ミスベスト10投票〆切まであと1日と迫ったが、今年は割と早くからちょこちょこ読んできたお陰で何とか間に合わせられそうだ。大作御三家を終盤に回したのがかなりきつくはあったが、3作とも期待以上の面白さだったことに助けられた。投票も結局そこらが軸にならざるをえんだろう……が、その方面(本格ミステリ系)はここでどれがよかったとか明かすのは控えたほうがいいだろうな。
ともったいぶったところで、代わりといっては何だが今年後半の頂き物で読んだもの数点を紹介。
まず飯野文彦『バッド・チューニング』(早川書房)は前作『ザ・ハンマー』の路線をさらに超過激に突き抜けさせた超絶スプラッタ・ホラー(この呼び方近年すっかり見なくなったが)。あまりに突き抜けすぎているため意外と「おえっ」とか「げえっ」とかはなりにくいかも(?)。ホラー小説大賞最終候補作。「バトロワ凌ぐ衝撃と狂気」との惹句だが、全く路線違うので比較はしにくいだろう。あとこの作家の場合、どんなにエグくても実は根っ子のところに結構純文学的ともいえる部分がある気がする。
その飯野文彦とトークライブで絶妙コンビぶりを見せてきた菊地秀行の<吸血鬼ハンターD>19作目『D−魔道衆』は亡きソノラマ文庫から初めて<朝日文庫ソノラマセレクション>に移っての新作。そのためか一段力が入ってて密度濃し。このシリーズすでに海外で訳されているが、後記によるとコミック版を初めとする他メディアでも世界展開の予定とのこと。この<セレクション>であの『妖神グルメ』も復刊するといいと思う(すでにトレジャーハンター・シリーズ復刊させてるソノラマノベルスでも可)。
海外作家からグレッグ・ハーウィッツ『処刑者たち』(上下・金子浩訳・ヴィレッジブックス)。前作『ER襲撃』はスピーディなハラハラ感で読ませたが、今回は重厚さ濃密さ増量。娘を惨殺された主人公ってところがスペシャルXシリーズのディクラークと似てるので興味湧いたが、結果こちらのが活躍度は遥かに高し。「クランシーの軍事知識とクーンツのスリル」の惹句は大袈裟じゃない。解説はこれまたスペX新刊(『メフィストの牢獄』手前味噌御免)でも担当してくれた古山裕樹氏。同シリーズ順次訳出紹介される模様。
古いところでシャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮らしてる』(市田泉訳・創元推理文庫)はかつて学研でひっそり出てた知る人ぞ知る作の新訳。いいよねこれは。ラストなんかほんと感心する。「超自然がないのに怖い」とはこの種の作についてよくいわれることだが、個人的には超自然あるなしで分けることはあまりしたくない。恐怖小説にはそれよりもっと肝心な何かがあるんじゃないかって気がする。解説桜庭一樹
もっと古いところで『ラヴクラフト全集・別巻・上』(大瀧啓裕訳・創元推理文庫)。他作家との共作・補作を2巻で網羅する企画で、これでようやく全集完結となる。狂人の記した文書が不気味なエディ・ジュニア「見えず、聞こえず、語れずとも」初め全作御大印濃厚。アマゾン評は例によって「既訳アリが多すぎ」などと頓珍漢なこといってるが、個人全集なんだから既訳有無に関わりなく収録するのは当然のこと。
ところでこの本もそうだが最近クトゥルー神話関連書が出版ラッシュの観を呈してるのは、やはりゲーム人気の余波が大きいだろう。またも手前味噌ながら(って自分のブログだから当然か)『タイタス・クロウの事件簿』もモロその恩恵で6刷まできた。有難いことだが、その割に怠け癖のため続巻が遅れ、読者に申し訳ないと思ってる(マジで)。
最後に、遺憾ながら未読だがまたまた末國善己編で『山本周五郎探偵小説全集』(作品社)が出始めた。毎月1巻(!)のペースで全7巻予定で、既刊『少年探偵・春田龍介』『シャーロック・ホームズ異聞』。次巻怪奇探偵小説篇とのことで期待大。