松井冬子

仕事しながら横目で『音楽戦士　ミュージックファイター』を見ていたが、ゲストが大橋卓也だったため──というよりデビュー当初はなぜかひどく気に入ってアルバムまで買ったスキマスイッチだったが、売れ出した途端になぜか急激に関心薄れちまったため──チャンネルあちらこちら換えて、普段あまり見ないNHK教育をふと出したところ、思わず2度見するほどに目を惹かれ、仕事の手が止まってしまった。
『ETV特集』再放送｢画家・松井冬子｣。美術方面には全く疎いので(他のあらゆる方面にも疎いが)知らなかったが、近頃注目されている閨秀日本画家とのこと。まず驚くのは、この画家当人が凄まじいまでの美貌であることと、そして同時に、そのルックスからは到底想像もつかない強烈にグロテスクな作風を持っていることだ。長身と顔の綺麗さは伊東美咲に似ているようでもあり、あるいは嘗て一世を風靡したファッションモデル故山口小夜子を思わせるようでもある。なのに描く絵はといえば、皮膚を切り裂かれて内臓が露出した女体図や、長すぎる黒髪を恐ろしげに垂らした幽霊然とした女人像だ。しかも大変な時間と手間をかけた驚異的な細密描写。小野小町で有名な｢九相図｣(死体腐敗変遷図)に強く惹かれてることも紹介されていた。こんな美人がどうしてそんな絵ばかり描くのかと、誰しもすぐさま興味をそそられずにはいないだろう。
番組では実作品の紹介および創作過程の一部の撮影、そしてこの画家に注目する3人の学者による本人へのインタビューから成っていたが、その3人の学者のうち2人の男性氏たち(1人は竹本健治の文庫解説書いてたりする布施英利で、もう1人は名前忘れたがバブル期のグルメ評論家みたいな髭面がちょっと嫌らしい人だった)は何だかこの人の美貌に下心があるだけみたいにしか見えなかったが(もちろんそんなことはないんだろうが)、しかしもう1人の上野千鶴子だけは息を呑むほどに鋭い切り込みをしていた。つまり、これだけの激烈な絵を描くからには画家本人によほど辛い何がしかの体験があったんじゃないか、という指摘を暗にしたのだ。画家はそれに頷き、否定しなかった。さらに｢もしも絵を描くという捌け口がなかったら?｣という問いには｢あ、それはもう死んでましたね。自殺です｣とあっさり即答していた。上野はその答えを当然のこととして予期していたようだった。さらにこの2人の女性の間には短い間に迫真のやりとりがもっとあって(長くなるので省くが)、画面を見ているこちらも最後には｢変わった絵を描くハクいねえちゃんがいたもんだ(まるきりオヤジ死語だが)｣的なスケベ心は消え、我知らず慄然とその恐怖世界に見入ってしまっていた。

※上の肖像と下の作例はネット上でくすねたもの。代表作にはもっと強烈なのがあるが、ここに載せるのはどうも躊躇われる。

※オフィシャルサイト→ttp://matsuifuyuko.com/