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森瀬 繚

図解 第三帝国 (F-Files No.015) 「世界の魔法使い」がわかる マーリン、パラケルススから近代魔術師まで (ソフトバンク文庫) 「堕天使」がわかる サタン、ルシフェルからソロモン72柱まで (ソフトバンク文庫)
贈っていただいた本シリーズ、先日一部紹介した(『道化の町』他)きりだったのでまたネタにさせてもらうことに。ただしとくにこのところ矢継ぎ早に著書を上梓して舌を巻かせる人たち3人を、それぞれ別項にしてみる。ということでまず森瀬繚氏を(因みに他の2人は南條竹則氏と菊地秀行氏)。
『「世界の魔法使い」がわかる──マーリン、パラケルススから近代魔術師まで』(静川龍宗と共著)と『「堕天使」がわかる──サタン、ルシフェルからソロモン72柱まで』(坂東真紅郎・海法紀光と共著)がソフトバンク文庫から同時刊行されたが、他に『図解第三帝国』(司史生と共著・新紀元社)が5月に出たばかりで、しかもそれら3作がどれも一筋縄じゃない大労作で、これはもう驚異的というしかない。
『わかる』シリーズ2作にしても、最近流行の手頃で軽い知識・教養・情報解説文庫本の一種かと思いきや、これがとんでもなかった。いや手頃なのだけは確かだが、中味はとても軽くはない。夥しい数の文献・原典をこれでもかとばかりに精密に渉猟し考証した成果をこの上なく濃密につぎ込んでるので、広く浅くというんじゃなくほんとに広く深い本になってて驚かせる。そのこと自体きっと作者の企みだ。つまり今日びの濃いゲーム・ファンやファンタジー・ファンは軽くて浅い知識じゃもう満足しないだろうだから、一見手頃な外見のこういう本をつい手にとったが最後どんどん深みに嵌まってしまう、ってことは大いにありそうだ。
また感心させられるのはテーマの切り口だ。たとえば『堕天使…』ではサタン・ルシフェル・ベルゼブブetc…等の項目を敢えて悪魔とせず堕天使としたのは、単に巷間よく「悪魔は落ちた天使」といわれるからじゃなく、「まえがき・善と悪の諸問題」によれば、「唯一絶対の神を戴く一神教の場合」にも現世に悪があることの矛盾を解決するために捻出されたのが堕天使なるものだったという、その視点そのものの面白さ(?)を敢えて強調するためであるようだ。『魔法使い…』では神話伝説の魔人魔女を皮切りにして歴史上実在の魔術師たちを驚くばかりに多数紹介してる。ジョン・ディーやエリファス・レヴィクロウリー等よく聞く名前は勿論、えっそんな人もいたのという例も多数挙げていて、魔法使いという切り口の(これまた)面白さそのものを紹介しようと目論んでいるようだ。
また『図解第三帝国』は同じ著者による『図解クトゥルフ神話』『図解吸血鬼』『図解宇宙船』が含まれるシリーズの1巻だが、これまたよくぞここまでというほどに、ナチス・ドイツの人間群像から歴史から軍事面からオカルト方面に至るまでまさに全項目〈図解〉付きで詳説していて、その徹底ぶりはもう呆れてかぶりを振るしかない。
この森瀬繚という人の風雲児的な活躍ぶりを見ていてつい思い出すのが、かつての荒俣宏氏だ。在野の百科全書派といえそうな趣きもさることながら、その博捜ぶりが決して単にジレッタントとしてじゃなく、それら〈百の科〉がバラバラじゃなく根っこで全部繋がってるように思えるところだ。つまりこの人も結局は全てを〈面白いこと〉のために捧げているんじゃなかろうか?