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ハローサマー、閉店時間

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫) 探偵奇譚 呉田博士【完全版】 シャンブロウ (ダーク・ファンタジー・コレクション) 千の嘘 (創元推理文庫) 御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫) 閉店時間 (扶桑社ミステリー ケ 6-9)
贈っていただいた本シリーズその2。
マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』(山岸真訳・河出文庫)は名のみ聞く傑作ということで、今度出たこの新訳で初めて読んだ。無知ゆえに、SFの名を借りた恋愛小説ってことか、といった上っ面な先入観でいたのだが、これが… いやたしかに途中まではそんな感じがなくもなかったが、最後までいって、これがどうしてもSFでなければならないことがわかった(SF無知者がいうのも何だが)──ような気がする。と同時に、これが恋愛小説でなきゃならん理由もそれと不可分なのだと。つまりSFと恋愛の深く大きな融合(?)が、哀しみと驚きの混じった嫋々たる余韻を生んでいる。まさに名作。
重要作品の復活という点で共通するのが(やや無理やりだが)、三津木春影『探偵奇譚 呉田博士』(末國善己編・作品社)だ。明治期に活躍したというこの作家(みつぎしゅんえい)遺憾ながら名前も知らなかったが、この呉田博士シリーズはその代表作にしてのちの探偵小説史に強い影響を与えた画期作とのこと。といっても実は元々オースチン・フリーマン作のソーンダイク博士物の翻案なのだが、ドイルのホームズ物も採り込んだりしてかなり独自色となっているようだ。第一篇の6作のみ読んだが、「奇絶怪絶・飛来の短剣」「巧妙自在・奇怪の指紋」等のタイトルの高揚感を裏切らない語りの面白さを堪能できる。千部限定、2段組500ページの大冊。
C・L・ムーアシャンブロウ』(仁賀克雄訳・論創社ダークファンタジー・コレクション)もまた埋もれた作品の復活として共通する。女流『ウィアード・テールズ』系作家ムーアの独特なスペース・ファンタジー〈ノースウェスト・スミス・シリーズ〉の集成で、嘗てハヤカワ文庫で出ていた短篇集3冊を改訳して纏めたものとのこと。この叢書、ミステリ系ホラー系SF系と幅広く採り込んで既に9冊を数え、順調に定着してきてるようだ。
次の3作は刊行されたてのホヤホヤ。
まずジャック・ケッチャム閉店時間』(金子浩訳・扶桑社ミステリー)は人気作家兼問題作家(?)とでも呼ぶべき作者の中篇集で、なんと本邦オリジナルの編纂によるもの。訳者解説によれば収録4作はB・ストーカー賞受賞の表題作はじめ、鬼畜なものからマカロニ・ウエスタン(!)なものまでバラエティに富んだケッチャムを楽しめるとのこと。とりあえず最鬼畜作という「雑草」を読んで成程と納得。なお代表作『隣の家の少女』は既に映画化され、日本でもDVD発売の噂があるらしい(多分見る勇気湧かんが)。
ローラ・ウィルソン『千の嘘』(日暮雅通訳・創元推理文庫)は初紹介の英女流で、同国推理作家協会賞最優秀長篇賞候補作だが、解説(千街晶之)によれば相当陰惨なDVを題材にした暗く重い物語とのことで、ケッチャムに通じる面ありといえそうだ(続けて読んだりすると応えそうでちょっと怖い)。でもストーリーとしては古い日記を調べるヒロインに不審な出来事が…という展開らしいので、そういうミステリ的謎の面白さに期待したい。因みに訳者の日暮氏は光文社版ホームズ全集を完結させたあとやっとペースが落ち着いてきたようだったが、本作あたりからそろそろまた怒涛の攻めに入るんだろうか?
そこでホームズ繋がりといえそうなのが(やや無理やりだが)柄刀一御手洗潔シャーロック・ホームズ』(創元推理文庫)だ。大作『密室キングダム』はじめ近年活躍目覚しい気鋭の中短篇集で、タイトルどおり東西2大名探偵が現代日本で(!)推理対決してるらしい。しかも巨石遺跡の逆さ死体とか人体工学研究所の密室殺人とかこの作家得意のトンデモ系横溢のようなので食指が動かずにはいない。おまけに解説は本家島田荘司が石岡和己&ワトソン博士からの手紙(!)として書いてるという凝り様。原書房版からの文庫化。
※以下その3に続く。