.

『坂本龍馬』白柳秀湖

またまた末國善己さんより、白柳秀湖著『坂本龍馬』(作品社・9/30刊)をお贈りいただきました、ありがとうございます!

ここ→http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20090725 で紹介した南條範夫『暁の群像――豪商岩崎弥太郎の生涯』に続き来年の大河ドラマ龍馬伝』に焦点を絞った企画のいわば真打ち登場だが、にしても68年ぶりの復刻というのが凄い。戦後の龍馬小説というと司馬遼太郎竜馬がゆく』の独占市場の感がある(末國氏による本書解説によれば近年は津本陽『龍馬』という人気作も出ているそうだが)ためというのもさることながら、本書の場合事情はそれのみにとどまらないようだ。解説によれば、作者白柳秀湖は小説家であると同時に社会主義者でありプロレタリア文学の先駆的作家で、本書は大正時代のリベラルな気風の中で民主主義の賞揚のために書かれたが、満州事変以後は作者が戦争肯定派に転じたため、戦後は作者とともにその作品群も閑却を余儀なくされることになってしまったようだ。だが作者自身この作品については「伝奇小説」と呼んでいて、つまり思想啓蒙の書でありながらフィクションも大胆に採り入れたエンタテインメントになってもいるということだ。あと末國氏の精緻な解説を読むと、龍馬という人物を巡っての時代による解釈の変転の様子に興味をそそられる。海軍の創案者という面から戦時には軍神に祭りあげられたが、戦後はそんな暗部が司馬版「竜馬」によって相殺されたとも見ることができそうで、そうした経緯以前に書かれたこの作品での龍馬像を見ておくことは、平成版『龍馬伝』を視る上でもきっと大いに参考になるだろう。
坂本龍馬





















ところで大河ドラマでの坂本龍馬というとまず北大路欣也主演『竜馬がゆく』(68年)があるが、前半寝転がって鼻くそをほじってばかりだった竜馬が不評を浴びたため、途中から突然鋭い目つきで闊達に奔走する竜馬に変わったのが妙に可笑しかったのを子供心に憶えてる。来年の福山版「龍馬」がどんなイメージになるのか、賊軍の地の視聴者としては皮肉半ばで楽しみに待ちたいと思う。http://www3.nhk.or.jp/drama/html_news_ryouma.html