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グレッグ・ハーウィッツ『犯罪小説家』

グレッグ・ハーウィッツ『犯罪小説家』(ヴィレッジブックス)を訳者の金子浩さんよりいただきました。
http://www.villagebooks.co.jp/books-list/detail/978-4-86332-222-6.html

これまでに『ER襲撃』『処刑者たち』(=http://d.hatena.ne.jp/natsukikenji/20071104)が邦訳紹介されているアメリカのスリラー作家ハーウィッツの新刊。「ある日目覚めたら、ぼくはただの作家ではなくなぜか殺人犯になっていた…」(=帯より)という設定に惹かれすぐに拝読した。その要約句のとおり、主人公の「ぼく」こと〈犯罪小説家〉アンドリューが元婚約者ジュヌヴィエーヴ殺害容疑で逮捕されるが、しかしなぜか「ぼく」には犯行の記憶がない。しかもその犯行がなんと脳腫瘍の発作によるものと認められ釈放される! だがそれでも自身納得がいかない「ぼく」は生業上勝ち得た警察関係の人脈まで駆使して独自に調査を始める。ところがそのさなかに第2の女性殺害事件に巻き込まれまたも疑われるハメに。そして畳み掛ける展開の末に2転3転のどんでん返しで意外な真相へと…というわけで、これは期待をも上回って相当満足する面白さを堪能できた。その要因はそういう筋運びもさることながら、主人公がその道の作家でしかもその点が小説上のテキスト面にも興趣深く活かされているところにもあり、だからこそアクションやスケールでは前2作のほうが上回っていそうなのに個人的には本作のほうがより趣味に合っていたといえる。デニス・ルヘインやロバート・クレイスに絶賛された展開力に加えて、巧みなユーモアが多数鏤められているところもいい。作者自身「自分にとって第2のデビュー作だ」といっているそうだが、それも頷けるこれまでとは違った雰囲気を備えた作品になっている。この路線の継続に期待したい。
また訳者あとがきによれば作者の夫人はなんとハリウッドの怪優ロバート・ブレイク(D・リンチ『ロスト・ハイウェイ』でミステリー・マンを演じ私生活では妻殺しの容疑で逮捕)を父に持つとのことで、その点が本書の執筆にも少なからず影響していたらしいのが興味深い。因みに本作冒頭に『ロスト…』と並ぶリンチの怪作『マルホランド・ドライブ』の舞台となったタイトルと同名の道路が出てくるが、「虚実入り混じる雰囲気からの影響があるのはまちがいなさそう」と訳者も指摘している。それは脳腫瘍で記憶の一部をなくした主人公という奇天烈な設定からして頷かせる。
金子さんありがとうございました!
犯罪小説家 (ヴィレッジブックス)